高齢者に多い「心臓弁膜症」
心臓は血液を全身に送るポンプの役割を果たしている臓器です。その流れを保つために、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁という弁があります。これらの弁が正常に作動することで血液は適切に循環しますが、弁膜症と呼ばれる弁の機能障害が起きると、心不全などのような問題が生じる可能性が高まります。
弁膜症には「狭窄」と「閉鎖不全」の2タイプに分かれており、特に大動脈弁と僧帽弁の異常はよく見られます。狭窄とは、弁が十分に開かず血流が制限される状態であり、閉鎖不全は弁が完全に閉じないため血液が逆流する状態です。
心臓弁膜症の症状
心臓弁膜症は初期の場合、しばしば無症状であり、健康診断(特に聴診)をきっかけに見つかることがあります。弁の狭窄・逆流が進んで心臓に負担がかかると、息切れ、動悸、ふらつきなどの症状が現れ始めます。
心臓弁膜症の原因
心臓弁膜症は、先天性の要因やリウマチ熱、動脈硬化、心筋梗塞などの後天性要因によって引き起こされることがあります。抗生物質の普及により、リウマチ熱関連の弁膜症は減少傾向にありますが、高齢化に伴い、加齢による弁の変性・石灰化による症例は増えています。また、腱索断裂や感染性心内膜炎、虚血性心疾患による弁膜症も見られ、心房細動や拡張型心筋症による心室の拡大から弁の閉鎖不全を引き起こすこともあります。
心臓弁膜症になりやすい人の特徴
近年での高齢化により、心臓の弁の劣化や石灰化による心臓弁膜症が増加しています。心臓弁膜症の罹患率は年齢が上がるにつれて高まり、65~74歳では8.5%、75歳以上では13.2%となっており、65歳以上では約10人に1人がこの病気にかかっているとされています。日本では、65~74歳では約140万人、75歳以上では約260万人が心臓弁膜症の潜在的患者であると推定されています。
若い人も心臓弁膜症になる?
若い人でも心臓弁膜症になることがあります。以下に若い人が心臓弁膜症になる主な原因を挙げます。
先天性心疾患
生まれつき心臓の弁に異常がある場合です。例えば、二尖弁(本来三尖弁であるべきが二尖弁である状態)やその他の構造的な異常が含まれます。
リウマチ熱
リウマチ熱は、溶連菌感染の後に起こる炎症性疾患で、心臓の弁を損傷することがあります。これは特に発展途上国や医療アクセスの限られた地域で見られることがあります。
感染性心内膜炎
細菌やその他の病原体が心臓の内膜に感染することで、弁の損傷が引き起こされます。これにより、弁の機能が障害されることがあります。
心臓の外傷
外傷や手術による心臓への損傷が、弁の機能を妨げることがあります。
遺伝的要因
一部の心臓弁膜症は遺伝的な要因により若年者に発症することがあります。
その他の疾患
マルファン症候群などの結合組織疾患が、心臓の弁に影響を与え、若年者に心臓弁膜症を引き起こすことがあります。
心臓弁膜症の検査・診断
心臓弁膜症は通常、聴診による心雑音や心電図の異常から発見されますが、精密な診断と治療計画を立てるためには、心臓超音波検査(心エコー検査)が必要です。この検査は痛みがなく、放射線被ばくのリスクもないため安全です。もし心臓に関する症状がある場合は、循環器内科での診察を受けることを推奨します。
心臓弁膜症の治療
心臓弁膜症は自己回復する病気ではなく、患者様の状況に応じて治療法が選ばれます。軽度の場合は、薬物による症状の緩和と経過観察が行われますが、症状が重症化した際には、外科的手術で弁の修復や交換、または心臓を止めずにカテーテルを用いた弁の植え込みが検討されます。
治療方法は多様化しており、年齢を理由に治療を諦めることなく、医師と相談し、自身の価値観に合った治療選択を行うことが大切です。
薬物療法
薬物療法は、症状を緩和し、心臓の負担を軽減するために行います。弁そのものを修復するわけではありませんが、症状を管理するのに役立ちます。
利尿薬
体内の余分な水分を排出し、心臓への負担を軽減します。
降圧薬
血圧を下げて、心臓の負担を減らします。
抗不整脈薬
不整脈を予防または治療します。
カテーテル治療
カテーテルを使って弁を治療する方法です。体への負担が少なく、回復が早いのが特徴です。
バルーン弁形成術
カテーテルに取り付けたバルーンを膨らませて狭くなった弁を広げる治療法です。特に僧帽弁狭窄症に有効です。
外科手術
手術によって弁を修復または置換する方法です。病状が進行している場合や他の治療法が効果的でない場合に行います。
弁修復術
自分の弁を修復する手術です。弁の形を整えたり、弁の動きを改善するためにリングを取り付けたりします。
弁置換術
損傷した弁を人工弁や生体弁(動物の弁)に置き換える手術です。
心臓弁膜症で
やってはいけないこと
過度な運動
心臓に負担をかけるような激しい運動や無理な運動は避けてください。ウォーキングや軽いストレッチなど、医師が許可した範囲での適度な運動を心がけましょう。
塩分の摂り過ぎ
塩分の多い食事は血圧を上げ、心臓に負担をかけます。食事は減塩を心がけ、加工食品や外食の際は塩分量に注意しましょう。
体重の増加
過体重や肥満は心臓に負担をかけます。バランスの良い食事と適度な運動で体重を適正に保ちましょう。
喫煙
喫煙は心臓病のリスクを高めるため、禁煙が非常に重要です。必要なら禁煙外来やサポートグループを利用してください。
飲酒
アルコールは心拍数や血圧に影響を与えることがあります。飲酒は適度にし、医師の指示に従ってください。
過度なストレス
ストレスは心臓に悪影響を与えることがあります。リラックス法を取り入れ、ストレスを上手に管理しましょう。ヨガや瞑想、趣味の時間を増やすのも良い方法です。
感染症
心臓弁膜症の方は感染性心内膜炎のリスクが高いため、歯科治療や手術の前に抗生物質を服用することがあります。また、風邪やインフルエンザの予防接種も検討してください。
心臓弁膜症の平均余命は?
大動脈弁狭窄症の場合、初期には無症状であることが多いのですが、進行すると重篤な症状が現れ、突然死のリスクも高まります。症状が出始めると、心不全で平均2年、失神で3年、狭心痛で5年の余命とされています。
しかし、早期発見と適切な治療により、多くの方が長期間安定した生活を送ることができるようになっています。実際に、心臓弁置換手術を受けた患者様は、10年~20年以上の生存が期待できるとされています。高血圧、糖尿病、喫煙などのリスク要因がある場合は、これらを管理することで予後が改善される可能性もあります。
心臓弁膜症などに関するお悩み・ご不明な点がある場合は、ぜひ当院にご相談ください。